震源の位置(緯度,経度,深さ)を決定するためには,3つの観測点のデータが必要です
(3.1項参照).
しかし,3点というのは必要最低限な観測点の数であり,得られた震源位置の精度評価まで行なおうとすると,
より多くの観測点でのデータが必要になります.
また,ある広がりをもった領域での地震活動を調べようとする際には,
そこを覆う範囲に適当な間隔で多数の観測点を配置し,観測網を構成するのが一般的です.
ここでは,地震観測においてもっとも基本的な処理である震源決定と発震機構解決定を行なう立場から,
地震観測点の望ましい配置はどのようなものであるかを説明します.
=== 図9.3 2つの観測点による垂直平面内での震源決定 ===
図9.3は,簡単のために,
2つの観測点で得られたS-P時間を用いて,垂直平面内での震源決定を行なう場合を示しています.
あらゆる測定には必ず一定の誤差がつきまとうものであり,上記のS-P時間についても,
P波およびS波の到着時刻の読取りの曖昧さに起因する誤差が含まれています.
とくにS波の到着時については,P波による揺れが続いている中での判定となるため,確かな読取りは一般に困難です.
このため,両観測点からの震源距離も,現実には,ある一定の誤差範囲内という形でしか推定ができません.
このような状況下で,震源の位置を震央,深さともに最小限の誤差範囲で推定できるのは,
図のBで示すように,震源の深さが観測点間距離とほぼ同程度の場合に限られます.
Aのように震源がごく浅い場合には,震央は精度良く求まるものの,深さが良く決まりません.
逆にCのように震源が深い場合は,深さが求まっても震央の位置が曖昧になります.
すなわち,浅い地震の震源を高精度で決めるためには,観測点間距離をもっと縮める必要があり,
逆に深い地震に対しては,観測点間距離をもっと広げる必要があるわけです.
なお,Dのように観測網の外で発生した地震については,震央,深さともに誤差範囲が大きくなるため,
震源決定結果の信頼性はかなり低くなります.
以上のことから,観測点は震源を取り囲むように配置し,
その間隔は対象とする地震の震源の深さと同程度にすることが望ましいとの結論が得られます.
このため,たとえば火山地帯のように,非常に浅いところで地震が頻発するような場所では,
特別に高密度の観測網を火山体近くに展開する必要があります.
なお,震源を取り囲むという原則に関しては,我々の観測が地表付近に限られるという制約があります.
東西方向や南北方向には,震源をはさむように観測網を広げることができますが,
深さ方向については地表から一方的に見下ろすことしかできません.
このため,震央位置の決定精度に較べて,震源の深さの決定精度は本質的に劣ることになります.
一方,発震機構解を決定する立場からは,3.2項に述べた
「震源球」上になるべくまんべんなく多数の極性データが存在することが望ましい状態です.
このためには,あらゆる方位,及びあらゆる距離の観測点における初動極性データが必要であり,
観測点の数は1つでも多い方がよいということになります.
なお,当然のことながら,観測網の外に発生した地震については,
極性データの存在範囲が偏るために,高精度の発震機構解推定は困難となります.