地震計を用いて,地震動,すなわち地震による地面の振動を計測するのが地震観測です.
地震による地面の振動と一口に言っても,人間にまったく感じない微小地震クラスでは
振幅が0.001ミクロン(μm)レベル,振動数は数10Hz程度なのに対し,
巨大地震による地震動では振幅が2〜3m,周期は数10秒に達します.
このように,地震動の振幅および周波数の範囲はきわめて広いため,
観測対象に応じて,目的に合った性質の地震計が使用されます.
その種類としては,大きく分けると,高感度地震計,広帯域地震計,強震計の3種があります.
高感度地震計は小さな地震まで敏感に検知し,主に局地的な地震の震源決定や発震機構解決定等に用いられます.
小さな地震は数多く発生しているため,短期間のデータでも,地下のプレート構造や地殻構造,
および各地の地震活動度等を精度よく推定することができます.
一方,広帯域地震計は大地震や遠方の地震による非常にゆっくりとした揺れまでを検知し,
CMT解の推定や地球深部構造の研究等に用いられます.
また,強震計は非常に強い揺れまで記録することができ,地盤構造や耐震設計など,
主に工学的な研究に用いられます.
言うまでもなく,地震計は地面に設置されます. したがって,地震が発生して地面が揺れると,地震計も地面といっしょに動くことになります. それなのに,地震計はなぜ地面の動きを記録することができるのでしょうか?
=== 図9.1 地震計の原理 ===
種明かしをすると,これには「振子の原理」が用いられています.
図9.1の左上に示すように振子を吊り下げ,
糸の上端を素早く左右に動かすと,手は動いても,振子の本体は空間に静止しています.
これは,物理学でいうところの「慣性の法則」による現象です.
振子の持つこのような性質を利用して,同図右上に示すようなしかけを作ってみましょう.
枠から振子を吊り下げ,その先にペンをつけておきます.
振子の下ではロール紙が一定の速度で巻き取られるようにします.
こうすると,地面が静止している間はまっすぐな直線が描かれるだけですが,図の矢印の方向に地面が振動すると,
装置全体は一緒に振動するものの,振子の本体は空間に静止しているため,
地面の動きとは逆向きのトレースがロール紙に残され,地震動が記録されることになります.
これが地震計の原理です.
ここまでの話でミソとなるのは,「手を素早く動かす」という部分でした. もしも,同図左下のようにゆっくりと手を動かした場合には,振子も一緒についてきてしまいます. この時,同図右下に示すように,地面のゆっくりとした動きはトレースとしてほとんど何も残りません. すなわち,地震計は地面の動きを記録する万能の道具ではなく, あくまでも地面の速い振動しか検知することができないのです. じわじわと進むようなゆっくりとした地面の動きの検出は,別項に述べる地殻変動観測用の計器が受け持っています.
ある地震計で記録できる振動の速さの目安は,その振子自身を自由に振らせた時の振動周期,
すなわち固有周期です.
長さ l をもつ単振子の固有周期 T は,重力加速度を g (=9.8m/sec2)として,
T =2π√l /g で表わされます.
たとえば l =6cmなら T ≒0.5秒,l =25cmなら T ≒1秒,l =1mなら T ≒2秒であり,
振子はこの T よりも短い周期の振動に対しては地面の変位に等しい振れを,
また T よりも長い周期の振動に対しては地面の加速度に比例する振れを示します.
加速度は建築物等に加わる力に関係する量であり,一般に強震計では,
非常に短い固有周期を持った振子を用いて,対象地震動の加速度を計測しています.
一方,高感度地震計は固有周期が1秒前後,広帯域地震計は固有周期が数10秒程度の振子を用い,
変位特性の領域で計測を行なうのが一般的です.
=== 図9.2 3成分の地震観測 ===
ところで,地面の揺れ方には,東西,南北,上下の3通りがあります.
これらを忠実に捉えるため,実際の地震観測では,
図9.2に示すように,3台の地震計をセットとして用います.
東西動・南北動については,特定の水平方向にのみ振動する振子を持った地震計を2台直交させて配置しますが,
上下動については,図のようにバネで吊るした形の振子を用います.
この場合も,地面の上下方向の素早い動きに対して,振子の本体は空間に静止する性質を利用しています.
なお,現実の地震計では,振子の部分に細い電線を多数回巻いてコイルを形成し, これを永久磁石の作る磁場の中で動かすことによって,地面の動きを電気信号に変換しています. いったん電気信号に変えてしまえば,これを増幅して現地で記録したり, または有線や無線によって遠隔地にデータを伝送する「テレメータ」が容易にできるようになります.