9.5 強震観測

 強震計は,大きな地震によるどんなに強い揺れでも,振りきれずに地動を記録することが使命です. そのためには,自分自身が壊れず頑丈であり, 得られた記録は必ず残されるようなシステムであることが求められます. ちょうど,飛行機事故におけるフライトレコーダーのような存在であり,得られた記録は, 地盤による強震動の増幅特性の研究や,耐震設計における入力地震動のデータとして用いられます.
 建物や土木構造物に対する破壊力は,地動の加速度が直接関係しているため, 強震計は加速度を測定するタイプのものが大部分です. 最近の標準的な強震計では,2 g ( g は重力加速度,9.8m/sec2)程度までの測定が可能になっています. 強震動の大きさは雑微動のレベルをはるかに超えるため,強震計はそのまま地表に設置されるのが普通です. 従来はもっぱら工学的な目的が強かったため,大きなビルや港湾,橋梁, ダムなどといった大規模施設に多数の強震計が設置されており, 地盤そのものの強震動を測定する基礎的な観測は,必ずしも十分ではありませんでした.

=== 図9.14 防災科学技術研究所のK-NET観測施設 ===
防災科学技術研究所のK-NET観測施設
 阪神・淡路大震災の発生を受けて,このような観測の重要性が改めて指摘されたことから, 防災科学技術研究所では,全国を約20km間隔で覆う1,000ヶ所の強震観測施設からなるK-NET (図9.14)を完成させ, 我が国で初めて全国的に均質な地盤強震観測網を作り上げました.

 強震計は人間の住んでいる場所における大きな揺れを把握することが主目的であるため, K-NET観測点は,市町村役場の駐車場がその代表的設置場所となっています. 高感度地震観測と異なり,強震波形の得られる機会は頻度が少ないため, 観測データは現地でいったん収録され,電話による呼び出しによって中央局へ転送する方式がとられています. 集められた強震波形は,加速度分布図などと共に,広く一般に公開されています.



=== 図9.15a 我が国における地上強震計の分布(2013年3月現在,地震調査研究推進本部調べ) ===
我が国における地上強震計の分布
 なお,9.3節で述べた781点のHi-net観測施設では, 高感度地震計とともに強震計も併設されており,地下における強震動が記録されるようになっています. このデータは,地表における強震波形と較べることにより, 地盤の強震動に対する応答を調べる重要な手がかりを提供するものと期待されています. この,地表と地下がセットになった強震観測網にはKiK-netという名称がつけられています.

 図9.15aに地上強震計の分布, 図9.15bに地中強震計の分布を示します. 地上強震計は,防災科研のK-NETおよびKiK-netを合わせた1,741点のほかに, 国土交通省が1,077点,気象庁が666点,大学が116点,産総研が1点を設置しており,その総数は3,601点です. 一方,地中強震計は防災科研KiK-netの694点のほかに,国土交通省が17点,大学が15点,産総研が1点を設置しており,その総数は727点です.


=== 図9.15b 我が国における地中強震計の分布(2013年3月現在,地震調査研究推進本部調べ) ===
我が国における地中強震計の分布
 なお,強震計の出力に演算回路を付加し,計測震度を算出するようにした震度計も, 阪神・淡路大震災を契機として飛躍的な高密度化が図られました. 震災前は全国で約300地点だった気象庁の震度計は約600地点に増強され, また,自治省消防庁の支援のもとに,全国の各地方自治体でも震度計を設置する動きが強まり, 約3,000地点に震度計が整備されました.さらに,防災科研の強震計も震度観測に役立てられています.
 これらのデータは順次オンラインで気象庁へ伝送されるようになり, 2013年度末現在,気象庁664点,地方公共団体2,927点,防災科研776点の計4,367地点の震度データが気象庁に集められ, 震度情報発表の対象となっています. これによって,従来よりはるかにきめの細かい震度情報が提供できるようになりました. (1.1節参照)




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