地震による地面の速い振動から,非常にゆっくりとした振動まで,
広い周波数範囲にわたって地震動を記録できるのが,広帯域地震計です.
従来は,周期20〜30秒までの地動を捉えるために,
水平振子や逆振子などを用いた長周期地震計が古くから使用されてきましたが,
これらの,器械的工夫のみによって固有周期を伸ばした地震計は一般に不安定であり,取り扱いが困難でした.
しかし,近年の計測技術の進歩によって,振子の動きを電気的に制御する方式を用い,
見かけ上数100秒の固有周期を持つ地震計が実現できるようになってきました.
このような地震計から得られる地震波形を用いて,世界中で起こる大地震のCMT解や,
震源での断層運動の時間経過を表わす震源時間関数などの解析がなされています.
=== 図9.12 横坑内に設置された広帯域地震計 (左)STS-1,(右)STS-2 ===
広帯域地震計には,固有周期が300秒程度のTYPE-1と,100秒程度のTYPE-2があります.
高精度の広帯域地震観測を行なうためには,
別項に述べる歪計や傾斜計による地殻変動連続観測と同じ注意が必要です.
温度変化や気圧変化は大敵であるため,通常,広帯域地震計は横坑の奥に設置されるケースが大部分です.
(図9.12(左)),
(図9.12(右))
=== 図9.13 我が国における広帯域地震観測施設の分布(2013年3月現在,地震調査研究推進本部調べ) ===
我が国では,このような広帯域地震計による定常的観測が,
阪神・淡路大震災前には全国の約25ヶ所で実施されていましたが,
これも地震調査研究推進本部の基盤的調査観測計画の一環として,観測網の強化が図られることとなりました.
新たに75点の広帯域地震観測施設を整備して,
既存点と合わせ約100の観測点により全国を100kmの間隔で覆う計画です.
観測点の新設は防災科研によって進められ,2013年度末には既設の観測点と合わせて73点が稼働しています.
図9.13は我が国の広帯域地震観測施設の分布図であり, 防災科研の73点(F-net),大学の47点,海洋研究開発機構の21点を合わせ,全体で143点が稼動しています. 高感度地震観測と同様,基盤的広帯域地震観測網(F-net)の観測データはテレメータによって防災科研へ常時伝送され, 波形の自動解析や蓄積,およびデータ公開がなされています.