いったん始まった破壊がどこまで拡がるかということは,破壊開始点の周囲における応力蓄積状況や,
地中における岩石の破壊強度の分布状態などに依存します.
広い領域にわたって地震発生の準備が整っている場合には,断層面が大きく拡がって大地震に発展します.
地震の規模を示すマグニチュード(M,正確にはモーメント・マグニチュードMw)は,
この破壊の広がり具合に直接関係しており,M8の地震では代表的な断層面の長さが100〜150km,
断層の食い違い量は4〜5mとなります.
また,M7の地震では断層長が30〜40kmで食い違い量が1.5〜2m,
M6の地震では断層長が10〜15kmで食い違い量が40〜50cmというのが,一般的なイメージです.
これを延長していくと,M2の地震は断層面の長さが100〜150m,食い違いの量は4〜5mm程度ということになります.
=== 図2.4 マグニチュードによる地震断層面の大きさの違い ===
図2.4は,
マグニチュードによる地震断層面の大きさの違いを見るため,
地図上に各マグニチュードの地震の典型的な姿を重ね合わせて示したものです.
M8の地震はひとつの県と同じ位の広さをもった巨大な断層面を有するのに対し,
M2の地震の断層面は小中学校の校庭くらいの広さしかありません.
一方,断層面上を破壊が伝播する速度は2.5〜3km/secですから, 地中での破壊が開始してから断層面の形成が完了するまでに要する時間は, M8の地震で30〜50秒,M7の地震で10〜15秒,M6の地震で3〜5秒であり,M2の地震では0.03〜0.05秒となります. このような固有の時間は, それぞれの震源から発せられる地震波の卓越周期(もっとも優勢な揺れ方の周期)を支配しています.
以上に見たように,地震のマグニチュードが1つ変わると,
断層運動を表わす各種パラメータの値はほぼ3倍づつ変化します.
一方,地震のエネルギーというのは断層運動の強さ(地震モーメント)で表現することができ,
これは,岩盤の剛性率に断層面の面積と食い違い量を掛け合わせたものです.
したがって,マグニチュードが1だけ大きくなると,
断層面の長さ,幅,食い違い量がいずれも3倍に大きくなることから,
エネルギーとしては3×3×3=27,すなわち約30倍の大きさになるということがわかります.
地震のエネルギーに直接関係するこの地震モーメントに直結して定義された,
物理的意味の明確な地震規模の尺度が,モーメント・マグニチュード(Mw)です.
=== 図2.5 マグニチュードによるエネルギーの違いと発生個数 ===
図2.5は,
この地震のエネルギーの違いを立方体の体積で表現したものです.
マグニチュードが1だけ小さくなると,立方体の一辺の長さが1/3になるように表現されています.
一方,1.2項に述べたグーテンベルグ・リヒターの関係式によれば,
Mが1だけ小さくなると地震の発生数は8〜10倍に増えるということから,
地震数が8倍,64倍と増えた場合の総エネルギーも,
図2.5に示されています.
この図からわかる通り,小さな地震がたくさん集まっても,大きな地震ひとつのエネルギーには及びません.
以上に述べた相似則によれば,Mが1だけ大きい地震は断層長が3倍で発生頻度は約1/10, またMが2大きい地震は断層長が10倍で発生頻度は約1/100となります. このように,小さい地震は数限りなく発生し, 大地震はめったに起こらないという事実を地下の状況として把えてみると, 地震の“種子”は常に発生しており,通常は少しだけ破壊が伝播してすぐに止まってしまうものが, 100回に1回は10倍くらいの距離を伝播し, また10,000回に1回は100倍くらいの距離を伝播するといった出来事が発生しているように想像されます.