以上に示したとおり,地震現象の本質は地中における断層運動です. このような断層運動が生じると,震源域では激しい揺れを生じますが, その揺れがおさまったのちも,地表には永久的な変形が残る場合があります. 断層面が地表に現れた場合は当然ですが,そうでなくとも, とくに地下の浅いところで断層運動があると,地表面は水平方向および上下方向に大きく変形します. (以下の図では,上下変動が誇張して描かれています)
=== 図2.6 垂直な横ずれ断層(左)および縦ずれ断層(右)による地表変形. 上段は上下変動,下段は水平変動を示す.===
このような変形の様子は,「断層の食い違い理論」によって計算することができます.
図2.6は,
垂直な断層面上で横ずれまたは縦ずれの断層運動が生じた際に,
地表で期待される変形の様子を模式的に示しています.
横ずれ断層の場合は,断層面上のずれに平行な向きの水平変動が卓越し,
上下変動は隆起と沈降とが4象限型の分布を見せます.
一方,縦ずれ断層の場合は,断層面のずれに引きずられる方向の上下変動が卓越し,
水平変動は断層面に向かう向きの2象限型の動きとなります.
この図では,断層面が地中にとどまっている場合を示していますが,
断層面が地表にまで到達した場合は,当然のことながら地表に切れ目が現われ,
我々の目にふれることになります.
=== 図2.7 低角逆断層による地表の上下変動 ===
次に,図2.7は,
ゆるく傾く面上で逆断層運動を生じた場合(低角逆断層)における,地表面の上下変動を表わしています.
このような断層運動は海溝近くの巨大地震に伴って発生する場合が多く,
海底面が図2.7のように急激な変形を行うと
海水面も同じ形に変形し,それが津波となって周囲に伝播していきます.
=== 図2.8 膨張源(左)および垂直な開口断層(右)による地表変形. 上段は上下変動,下段は水平変動を示す. ===
「断層の食い違い理論」では,食い違いが断層面に平行に起こる場合だけではなく,
食い違いが断層面に垂直な方向に起こる場合(開口断層)でも計算ができます.
地震はある面を境とした「ずり現象」ですから前者が適用されますが,
火山における割れ目噴火や水盤の膨張などには後者が適用されます.
火山をモデル化する場合,山頂噴火には球状のマグマ溜りを模した膨張源が,
また,山腹噴火には岩脈状のマグマ貫入を模した開口断層がよく使用され,
それぞれにおける地表変形の様子は,図2.8に示すようになります.
膨張源では上下変動も水平変動も当然点対称のパターンとなりますが,
開口断層では断層面に直交する方向に大きな伸びが現われ,
また,断層面直上の沈降と両側における隆起が大きな特徴です.