6.2 活断層

 ひとたび内陸型地震が発生すると,それにより生じた断層面は, 次回の地震発生時にも再び震源として使われることが多いようです. それは,既存の断層面は破壊強度のコントラストが強い特異な場所となり, 応力の集中が生じやすくなるためと考えられます.
 地質学的に最近の期間(数10万年〜200万年)において地震を繰返し発生させ, 今後も引き続き活動して地震を引き起こす可能性の高い断層は「活断層」と呼ばれます. 1995年兵庫県南部地震(M7.2)はこの活断層を舞台として発生したことから, 活断層という用語は一般の人にもよく知られるようになりました.

=== 図6.3 活断層に沿った地形的特徴(活断層研究会編「新編日本の活断層」:科学技術庁パンフ「活断層」より) ===
活断層に沿った地形的特徴
 2.3節に述べたとおり,地震による断層運動によって地表面は変形するため, これが繰返されると,累積された変位は活断層に特有の地形を生むことになります. 図6.3に示すように, 活断層沿いには直線的な地形異常(リニアメント)が連なり, また,山の尾根や谷筋,河川の流路などに食い違いが生じます. 多くの場合,活断層の存在は,地形図や航空写真を用いて, このような地形的特徴を識別することによって確認されます.

 ただ,このようにして生じた地形の特徴も,やがて浸食や風化などによって乱されていきます. このため,同じ活断層でも,活動度が高く断層のずれの進行が速い場合は, はっきりと特徴的な地形が残るので弁別しやすいのですが, 活動度が低い場合には地形の特徴が不明瞭となり,発見は困難になります.



 我が国では,地形学者・地質学者の共同作業によって, 全国の活断層の分布調査がすでになされており,2,000を超える活断層がリストアップされています. これらの活断層は,長年にわたる断層運動によってずれの量が蓄積されていく速度(活断層の活動度)により, 次のように階級分けされています.

分類 定義
A級活断層 1,000年あたりの平均的なずれの量が
1 m以上10m未満のもの
国府津−松田断層(神奈川)
丹那断層(静岡)
富士川断層(静岡)
根尾谷断層(岐阜)
阿寺断層(岐阜)
跡津川断層(岐阜)
B級活断層 1,000年あたりの平均的なずれの量が
10cm以上1m未満のもの
千屋断層(秋田)
福島断層(福島)
立川断層(東京)
有馬−高槻断層(兵庫)
山崎断層(兵庫)
C級活断層 1,000年あたりの平均的なずれの量が
1cm以上10cm未満のもの
深溝断層(愛知)
郷村断層(京都)
鳥取断層(鳥取)


=== 図6.4 我が国における陸域活断層の分布(活断層研究会編「新編日本の活断層」:科学技術庁パンフ「活断層」より) ===
我が国における陸域活断層の分布
 日本全体では,活動度A級の活断層が約100,B級の活断層が約750,C級の活断層が約450知られています. ただ,先に述べたとおり,ずれの速さが小さい場合は地形による判別が困難となるため, 実際に存在する活動度C級の活断層はもっと多いものと想像されています.

 図6.4は, 活断層研究会(1991)によってまとめられた,我が国における陸域活断層の分布です. 活断層の密度は中部地方と近畿地方で濃くなっているため,長期的な意味においては, 両地方における内陸地震発生の頻度は他地域に較べて高いと言えます.

「活断層」という用語を聞くと,なにか断層が生きていて常に動いているような印象を受けますが, 平時の活断層は静穏であって,何の動きもしていません. しかし,数千年から,場合によっては数万年に一度,突然動くことによって大きな地震を発生させるのです. すなわち,活断層の動きは間欠的であり,その活動周期は非常に長いもののです.



=== 図6.5 活断層が変位を累積させていく様式 ===
活断層が変位を累積させていく様式
 図6.5は, ひとつの活断層が変位を累積させていく様子を模式的に示しています. 活断層が一回の地震を起こす際のずれの量 D と,地震を発生させる活動間隔 R は, ほぼ一定であると考えられており,長期的にならせば,断層の変位速度 S は S=D/R で表わすことができます.
 この量 S は地形・地質学的な調査から見積もることができるので, 一回の地震により生じるずれの量 D がわかれば, その活断層が地震を起こす間隔 R を,R=D/S によって推定することができます. たとえば,M7の地震による断層変位量はD=1.5m程度なので, 平均変位速度 S が千年あたり50cmのB級活断層であれば,地震発生間隔 R は3,000年となります.



 活断層が起こす地震の大きさとしては, 一般に,長い断層の方が短い断層よりも大きな地震を起こし得ると考えられます. しかし,長大な長さをもつ活断層であっても,実際に活動する場合は, そのうちの一部分だけが動くという場合がしばしば見られます.
 ひとつの活断層がいくつかの部分(セグメント)から構成されている場合, それらが地震の際に同時に動くのか,それとも別々に動くのか, または地震のたびに毎回様相が異なるのか,一概に推測することは非常に困難です.



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