以上では,海溝部近くのプレート境界を断層面とする「海溝型地震」
(プレート境界地震)について述べてきましたが,沈み込む海洋性プレートに関連して発生する地震には,
このほかにプレート内部で破断を生じるようなタイプの地震があります.
沈み込んだプレートはスラブと呼ばれるため,このような地震のことを「スラブ内地震」と言います.
図4.12の東北地方における震源断面図に見られたような,
深発地震の二重面に沿って常時発生している中小の地震は,
すべて沈み込むプレートの内部で発生している「スラブ内地震」です.
=== 図5.9 沈み込んだ海洋性プレートの境界付近で発生する地震 ===
これらの地震に共通する一般的な特徴として,二重面のうち上面に属するものはプレートの沈み込む方向にP軸が,
また下面に属するものはT軸が,それぞれ向くような発震機構解を有していることが挙げられます
(図5.9).
このような二重の地震面が何故生じるのかはよくわかっていませんが,
いったん曲げられたプレートがふたたび直線状に戻ることによる非曲げ(アンベンディング)効果,
プレート上面付近と内部との温度差による熱応力効果,
あるいは,温度による物質の変化などが,その原因として考えられています.
このほかにも,沈み込む海洋性プレートの内部では,プレート形状の変化に伴う応力集中によると思われる地震や, すでに沈み込んだプレートの自重による引張り力が作用したためと考えられる地震など, 様々なタイプの地震が発生しています.
=== 図5.10 太平洋プレート内部で発生した巨大地震(北海道・東北地方) ===
これらのプレート内地震の中には,時折,巨大な地震も混じることがあります.
たとえば太平洋プレートに関しては,日本海溝付近で生じた正断層型の地震で,
沈み込んだプレート部分が折れたとの解釈がなされている1933年三陸地震(M8.3)や,
色丹島沖合いの深さ20km付近で生じ,海側への高角逆断層として発生した1994年北海道東方沖地震(M8.1),
釧路平野の直下約100kmの深さで発生し,ほぼ水平な断層面を生じた1993年釧路沖地震(M7.8)などの事例があります
(図5.10).
最後の釧路沖地震では,100kmという震源の深さにもかかわらず,
釧路市で震度6が記録され,2名の犠牲者を出しています.
=== 図5.11 フィリピン海プレート内部で発生した大地震(関東地方) ===
一方,フィリピン海プレートについても,上記ほど巨大な地震ではないものの,
近年いくつかのプレート内地震が発生しています.
たとえば,伊豆大島の西方沖でほぼ東西の右横ずれ断層を生じ25名の死者を出した1978年伊豆大島近海地震(M7.0),
伊豆半島川奈崎の東方でほぼ南北の左横ずれ断層を生じた1980年伊豆半島東方沖地震(M6.7),
房総半島九十九里浜付近直下の深さ約50kmで東に傾く高角断層面上の右横ずれ断層を生じ,
2名の死者を出した1987年千葉県東方沖地震(M6.7)などの例が挙げられます
(図5.11).
これらのうち,伊豆半島周辺の2つの地震は沈み込む前のプレート内部で生じているため,
「スラブ内地震」とは言えません.