前項までに述べた地震観測と地殻変動観測は地震調査研究のもっとも基本となる部分ですが, 地震発生メカニズムの究明や,地震に付随する様々な現象の理解, より高精度の地震発生予測などを進めるためには,地震現象に対してあらゆる角度からの検討を加え, 総合的な判断を行うことが必要です. 以下では,地震および地殻変動観測以外の各種調査研究の概要を紹介し, それぞれに対する我が国の調査観測体制を示します.
地震発生に関連する電磁気現象としては,地磁気・地電位・電気抵抗等の変化や,電磁放射など, さまざまなものが考えられています(図11.1 ). しかし,一般に我が国では交通機関などの人間活動に伴う電磁気的ノイズが大きく, これらの中から有意な信号を抽出することは困難とされています.
=== 図11.1 地震に関連する電磁気現象(長尾年恭「地震予知研究の新展開」近未来社より)===
地磁気変化の観測は,地殻応力の高まりによって岩石の磁気的な性質が変化し,
地磁気に異常が現れる現象を検出しようとするものです.
磁気異常を検出するためには,まず平常時の地磁気の状態をきちんと把握しておく必要があり,
長年にわたる安定的な観測が必要となります.
我が国では,大学,国土地理院,気象庁などによって,
およそ50ヶ所ほどの定常的地磁気観測点が運営されています.
プロトン磁力計等を用いた野外での地磁気観測結果を解釈する際には,
これらの定常観測点で得られた地磁気データが基準として使用されます.
地電位差(自然電位)の変化の観測は,地磁気以上に環境ノイズの影響を受け易いものです. このため,最近では,NTTの電話回線を利用して長基線の観測を行うことによりノイズを克服しようとする手法が, 気象庁や東大地震研などにより試みられています.
電気抵抗変化の観測は,応力変化や破壊現象に伴って岩石の電気抵抗が変わる現象を検出しようとするものです.
地殻深部の電気抵抗を測定する手段としては,地磁気や地電流の短周期変化を観測する方法があり,
気象庁や国土地理院などにより実施されています.
また,応力変化に対する電気抵抗の変化率がきわめて大きい岩体を見つけて,
わずかな地殻応力の変化を敏感に捉えようとする観測や,地中に人工的な電流を流して,
それに対する岩石の応答を見る観測などが,大学グループを中心として行われています.
電磁放射の観測は,本震あるいは前駆的な地震に伴う岩石の破壊により 放出される電磁波を捉えようとするものです. 電磁波を対象にする場合,一般に大きな環境ノイズが問題となるため, 帯域を限ってノイズレベルの低い周波数で観測を行ったり,地中深くに電極を埋設して垂直電界を計測するなど, 様々に工夫をこらした観測が,大学や防災科学技術研究所等により実施されています.
このほか,地震の発生前に電離層に異常が生じ得ると考え,電波の伝播状況変化を観測するなど,
さまざまな角度からの取り組みがなされています.
ただ,このような電磁気現象が地震との関連において生じるメカニズムについては,
まだほとんど解明されていないのが実状です.
=== 図11.2 我が国における地球電磁気観測施設の分布(2013年3月現在,地震調査研究推進本部調べ) ===
図11.2は,我が国において,
定常的な地球電磁気観測を継続している観測施設の分布を示しており,
その内訳は国立大学が32点,国土地理院が14点,気象庁が6点の計52点となっています.
なお,ここに示された以外に,民間においても,様々な角度からの観測研究が行われています.